遠泳をした話
遠泳、簡単に言うと遠足の海バージョンである。
毎年中学1年生は千葉県の某海岸から遠泳をするイベントがあった。
ただ泳ぐのではなく、隊列を組み、顔上げ平泳ぎで3時間くらい海で泳ぎ続けるのだ。
今思うと学校行事としては半端なくリスクが高い気がする。
遠泳に臨むにあたって、体育の授業はほぼ平泳ぎの練習となったのも覚えている。
2泊3日の宿泊行事でもあったので、当然最初の2日間は海で泳ぐ練習をする。
泳げない人もいたので、遠くまで行くグループ、近くでぐるぐるするグループなどに分けられ、練習。
私は小学生の時スイミングスクールへ通っていたので、泳ぎに対しての不安はなかったが、遠泳はプールとは違ってザ•海、波がある。
顔上げ平泳ぎとはいえ、目にも口にも鼻にも海水が入ってくる。
これが半端なく辛い。
しかもクラゲがいる。
クラゲに刺される恐怖は半端ない。
指導教官が怖い。
海に来ているのに全然キャッキャできないのだ。
まぁ、リスクが高い行事だから今思えばまさに有難い環境であるけど。
練習は午前午後であるのだが、海から帰ると必ず砂糖を溶かしたお湯みたいのが配られて休憩みたいな感じだった。
これがめちゃめちゃ不味かった。
いよいよ本番の遠泳を行う、宿泊最終日。
目標はみんな無事に陸に帰ってくること。
泳ぎの速さを競うわけでもなく、ただただ広い海原に隊列を組んで泳いで行く。
遠足と違って、話すことはできない。
話すこと自体に海水を飲むリスクがあるからだ。
後ろにも前にも横にも同級生がいるのに話すことはなく黙々と泳ぐ。
陸から離れれば離れるほど海水は冷たくなる。
海底が全然見えなくなる。
いつ死んでもおかしくないんだろうなぁとか思いながら、段々と喉の奥が塩辛くなってきて辛くなる。
疲れてきても、隊列を崩してはいけないので一定の速さで泳ぎ続けなければいけない。
しかも景色は代わり映えしない海の青。
変化は雲の動きくらい。
遠くにトビウオの群れが見えた。
そして唯一の楽しみの時間が来る。
氷砂糖タイムだ。
マラソンの給水所のごとく氷砂糖が口の中に放り込まれる。
カロリー補給と口の中の辛さを和らげるために重要なアイテムだ。
ベホイミをかけられたのごとく口の中にオアシスが広がる。
めちゃめちゃ美味しい。
口の中で転がし、大事に大事に舐めていたその時、悲劇が起こる。
氷砂糖が口の中から飛び出していった。
あっという間に海の中に溶けていく。
天国から地獄とはこのことだ。
嗚呼、私の氷砂糖。。。
この悲劇を誰にも伝えられない。。
辛い。
辛い。
そして遠泳は終わった。
全員無事に陸地に上がった。
上がった瞬間疲労と重力で身体が鉛のようだった。
でもやり遂げた達成感がすごかった。
家に帰ったあと、氷砂糖がどうしても食べたくて、氷砂糖を買った。
全然美味しくなかった。
あの状況下で食べる氷砂糖が美味しかったのだと気付いて余計に悲しかった。